2009/01/09

「自壊する帝国」佐藤優著

あわせて読みたい「国家の罠」。文庫本がお勧め。理由は後述。画像ははてなのキーワードへリンク。

「国家の罠」が存外に面白かったので続いて購入。2008年10月頃の発売直後。

本書は、ソ連崩壊前後のロシアの政治家や官僚に焦点を絞り、時には自分自身を含めた人間たちの生き様を描いている。イギリスでの研修時代を皮切りとして、主にソ連(ロシア、ラトビア)での体験をベースに政治を軸に宗教を衣にして、時代を行きつ戻りつしながら物語は展開していく。
政治と宗教だ。これで野球の話が加わったら、会話のタブー三題噺ではないか。一体誰とこの本の話をすればいいのか。

政治は生存競争と駆け引きであり、勝ったものが権力と金(もしくは好待遇)を手に入れる。宗教には常に人間くささがつきまとい、宗教組織は結局は政治の世界と何ら変わらない。そのことが全体を通してぼんやりと見えてくる。
また、国家には国民を団結させるためのある種の神話(国教)が必要だとも考えている節がある。ポローシンとの会話(p.303)でポローシンが語ったように描かれており、それはそれで事実だとは思うが、実は著者の主張の一つではないだろうか。

インテリジェンスと呼ぶ情報収集、情報戦略のため、生活を犠牲にし(奥様はないがしろ)、肝臓に負担を掛け(ウオトカ痛飲だが酒は強い)、絶え間なく続く接待(嫌いな人でもお近づきの印に)、秘書や電話交換技師、ホテルスタッフへのこまめな配慮(何かあったら教えてね)を行っていく。
特異なのは、イリインやブルブリスなどの中枢にいた政治家たちが著者を非常に気に入ったこと。著者の宗教に対する知識、ロシア的思考、ウオトカの飲みっぷり、外交官としての立場をわきまえた立ち居振る舞いだけでなく、著者との会話で滲み出る知性に惹かれたのだろうか。逆に著者はモスクワ大学で知り合うサーシャと呼ぶロシア青年の知性に惹かれていき、大きな影響を受けたようだ。

少し脚色を感じる部分もあるがそれは著者の主張であろう。
例えば、「黒い大佐」ことヴィクトル・アルクスニスと交わした会話の中で、著者の両親の戦争体験を語っていたが、外国人相手の会話の中であれだけの文を喋りながら、相手がそれを十分に理解できたとは思えない。よってかなりの補完が入っているはずだ。ちなみに著者の母親は沖縄出身(久米島)だ。

登場人物、例えば、サーシャ、ポローシン、シュベード、アルクスニス、イリイン、ブルブリスは実在する/したのであり、Googleで検索してみたくなるほどだ。「ポローシン」で検索すると本書ばかりがヒットする。人名に英語表記、ロシア語表記があれば検索の手がかりとなり追従体験できるのでなおよかったと思う。

2冊とも面白い本であった。
「自壊する帝国」の方が好みだが、「国家の罠」のドキュメンタリー性も迫力がある。双方を読んでいると相互の面白さが増す。
しかし、「国家の罠」でも同じだが、文庫本の「文庫版あとがき」のボリュームはいったいどういう事だ。本書では更にボリュームアップして1章分にあたる量を追記している(77ページに上る)。文庫本が出た今となっては単行本を買う理由はほとんど無い、と言ってもいい。

著者の昨今の活躍ぶりは目に余る、違う、目も当てられない、これも違う、えーと、そうそう、目を奪うほどのものだ。ただ、例えば「国家と神とマルクス」など対談ベースの思想の交換をテーマにした本は個人的にあまり興味を引かれない。立ち読み程度での確認なので何とも言えないが、体験をベースに書き下ろした本が面白く感じる。

早く裁判が終わり著者の出国が認められ、登場人物達と再会が果たせることを願う。
その物語を読んでみたい。

著者の知性は外務省のという籠を飛び出し(まだ辞めてはいないが)、野に放たれた。これは喜んでいいことではないだろうか。

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