2008/06/26

マルチヒータの意外な活用

冬季に窓からくる冷気をシャットアウトするマルチヒータを本来の目的そのもののために購入したが、ここ最近は目的外に活用している。
転用場所は、クローゼットと靴箱の中。

購入していたマルチヒータはこれ: 写真左がクローゼット用(90cm)、右が靴箱用(45cm)

クローゼットの中の服が冬季に冷たくて湿気を帯びている気がして、何とかならないかなぁ、とぼんやり長いこと思っていた。
今の家に引っ越した次の年(2年前だ)にマルチヒータを購入、冬季の間、窓からの冷気をシャットアウトするために使用していた。確かに窓からの冷気は格段に少なくった。当然、季節が暖かくなればお役御免となり、納戸にしまわれることになる。

話は、昔、学生の頃アルバイトをしていた電気工事の一人親方の話に時間的空間的に跳躍する。
昔アメリカ人のパイロットさんの家の工事をしたことがあってな。
洋服ダンスに電球をつけてほしい、扉が閉まっている間は点いていて扉を開くと消えるような
だって。
何のためか、って聞いたら、日本は湿気が多いんでその湿気取り、だと。
面白いなって思ったね。
貧乏学生時代最後の2年間ほど窮地を救ってくれたこのアルバイトは、土曜日の朝8時に調布の親方の家へ自転車で行き、親方の車(日産グロリアのワゴンだ)で出発、18時まで電気工事の助手として働いて1日1万円のその日払い。練馬、世田谷、板橋方面の仕事が多かった。昼ご飯と晩ご飯は奢ってくれたし、親方の家でごちそうになることもあった。残業は18時以降1時間ごとに千円が加算されていくので時間当たりの単価は残業代の方が低いのはちょっとだけ腑に落ちなかったが、それ以外の恩恵のほうが大きかった。
親方の話の時代は1960年代のようだったので、いわゆる電球が主流、点灯すると照明に使われるのは電力のほんの一部であって大部分が熱となって逃げていく。それを洋服ダンス内の湿気取りとして応用したようだ。扉が開くと消灯にする理由は分からなかったが、大がかりなスイッチのつもりだったんだろうか。

話はブーメランのように現代に戻って、1年前の梅雨時期のある日、クローゼットの中のネクタイやらスーツにカビが生えているのを発見した。

親方の話してくれた記憶がクローゼットの前で佇む私の頭に突然よみがえり、そうか、温かくすれば湿気は飛ぶのか、すると服にカビもつかないのじゃないか、やってみる価値があるんじゃないか、と閃き(この程度でも閃きは閃き)、早速納戸からをマルチヒータ(写真左の90cm)を取り出して、クローゼットの中の床に置いて様子を見てみた。電源コードはクローゼットの扉の隙間からなんとか引き込むことができたのは幸い。
電気代も消費電力が20W(0.02kW)そこそこなので、
月当たりの電気代 = 0.02kW * 24時間 * 30日 * 20円/(月*kWh) = 288円/月
と、これならカビて捨てられ新たに買い直すよりよっぽどマシと考えた(サーモスタット付きならなおうれしいが)。
それから1年が経過した。
私の素敵な奥様の評判もいい。
窓の冷却シャットアウトは我慢ができなくなったら追加購入するつもりだったのが、別途パネルヒータを購入したせいもあってか我慢できてしまった。
調子に乗って先の冬の間もずっとクローゼットの中で活躍してもらった。
クローゼットの中でマルチヒータは、冬の外気温が低い間はやや効力が落ちたが(クローゼットの体積が大きいので120cmのほうがより適しているかも)、評価に値する十分なパフォーマンスを示してくれた。

今年の梅雨には靴箱の中の革製の靴にカビがついた。
これには素敵な奥様が自らのアイディアを言うが早いか速攻で写真右(45cm)のマルチヒータを靴箱の最下段にセットした。
靴箱の体積がそんなに大きくないこともあって、これは効果抜群。副次的な効果として靴箱の中にこもっていた臭いも消えた。

クローゼットや靴箱の戸を開けると、ほのかな暖かさがふんわりやってくる。
中の服や靴もマルチヒータからの距離にもよるがほんのり暖かい。

湿気が気になる人やカビ対策にお悩みの方にお勧めしたいマルチヒータの活用方法である。


# 写真のリンク先はamazonだが、実際の購入先はいずれもamazonではない。
# 親方の話は改めてまた書きたいと思う。

2008/06/21

目的と手段を履き違えているもの

目的と手段を履き違えているもの:
  • 政治家になりたい政治家 (目的は国県市町村単位の社会をよくすることであって政治はその手段)
  • 安定企業への就職者 (ほんとにその職業が好きなの?、生活の安定が目的か)
  • 有名になりたい芸術家 (有名になるのに芸術家である必要は?)
  • 会社に命まで捧げるサラリーマン (会社はあなたのことを助けてはくれない)
  • 子どもをペット化する親 (そう言うお前は大丈夫か…)
  • ハブ退治に導入されたマングース (マングースも普段はハブを食べません)
  • いわゆる趣味全般 (手段が目的になったものを趣味という、とは長岡鉄男氏の弁)
いろいろ。

画像はwikimedia commonsから。

2008/06/13

「魅せる会話」エドワード・デ・ボノ著の「美しい心」


魅せる会話 ― あなたのまわりに人が集まる話し方 (単行本)
エドワード・デ・ボノ(著)
住友 進(翻訳)
阪急コミュニケーションズ
2005/10/22(初版)
1,575円


極東ブログの紹介により購入。
人と会話していて、よく話が続かなくなるので(数ヶ月前社長と偶然モノレールで隣り合って実感)、続かせるような何かコツでもあれば、との淡い期待を抱いたのだが、そんな小手先のことじゃなかった。
原書タイトルは "HOW TO HAVE A BEAUTIFUL MIND" で、美しい心の持ち方になるのだろうが、それもちょっと違う気がする。
読み進めていて「美しい心」の表現にどこか引っかかりながら読み終わり、その「訳者あとがき」で翻訳者の住友氏は、本文で使われた「美しい心」の代わりに「心がきれいなひと」と書いているのに気づいた。本書の意図には鑑賞対象を感じさせる「美しい」より純粋とか真っ当さを感じさせる「きれい」が日本語としてより適切であるとことが言いたかったのではないか。
本書の要約はその「訳者あとがき」によくまとまっている(思わせぶり)。

筆者が一番重要視しているのは、以下に引用する記述群ではないか。
冒頭のp.11の記述:
話し合いや討論は、対立するエゴとエゴの戦いではなく、一つのテーマを純粋に探求する場にしなくてはならない。
筆者が開発したパラレル・シンキングを例にとったp.102の記述:
パラレル・シンキングは、議論のような「エゴを駆り立てる」「戦闘志向の」方法とはまったく違います。この方法に慣れた人は、議論という手段に戻ってしまうのは、かなり原始的なことであると自然に気づきます。
抗議行動やディベートに対するp.182の記述:
なぜわたしたちの観点は異なっているのか? 私たちの観点の本質的な違いとは何か? これらの観点の違いは、異なる価値、異なる経験、異なる情報のいずれに原因があるのか?

それは「戦い」と「探求」の違いです。
続くp.183の記述:
同じように、いつも同じ立場を繰り返すこともさほど楽しいことではありません。
新しいアイデアを出していく必要があるのです。あるテーマの疑問点についてもっと自由に語り、探求していく必要があります。会話の終わりに、話し始めたときより多くの知識をもって、双方が席を立つようにすべきです。
つまり、私の理解による本書の分かり易い目的は、
  • 他人のと会話、議論などいわゆる言葉を通じたコミュニケーションをとるときに、そのコミュニケーションを始める前より後の方がお互い高みに達しているべきであること
  • そのために知っておきたいこと、やるべきこと
のような気がする。
確かに、そうできれば「美しい心」「心がきれいな人」でいられるかもしれない。
最近も身近な例で、いい年した大人が人の失敗につけ込んでワーワー言っているのを見たりすると そんなことより解決策を提案をすべきでは なんて思ってげんなりするもんな(結局口は挟んだが)。

主張のぶつかり合いでどちらの言い分が通ったかなんて関係ない、よりよい結果を得る結論に達したか、または、その方向へ双方が主題を転換できたか、が重要だ(身近にそう感じるときがある、かもしれない)。

私の理解した明言されていない本書のもう一つの目的は
  • コミュニケーションの取り方は、心のあり方次第で変わってくるし、それはつまり生き方に等しい
  • とすると、よりよい生き方には「美しい心」が必要であり、それはコミュニケーションの取り方次第
  • そのコミュニケーションの取り方を学びましょう
か。
なので「魅せる会話」という邦題も違和感あり。

本書の内容はとてもためになるものであるとして、文章も平易であったが、ちょっと意図するところが読みにくかった。いや、大まかには分かるのだが、センテンス単位でそういうことを言いたいのか、そういう喩えか、と確信を得るのにちょっと苦労した。
また、各章は内容のレベルごとに大きな章に分けたくなるような、もう少し構造的であれば理解もし易くなるのでは。フラットすぎて、せっかくの内容を、うまく伝え切れていない気がする。まとめ直したい。

ところで、冒頭のコツは身についたのか。
自分の仕事についておもしろく話せるように、関心を持ってもらうようにしてみるつもりだ、ということであるが、仕事は通信の技術屋さんなので一般には想像し難いので話しにくいのだなぁ、通信の秘密とか守秘義務とか(社長! 何か間違っている気がするんですが)。

2008/06/04

統計学入門書2種

その数学が戦略を決める」に触発されて、統計学の本を2冊ばかし購入。



「完全独習 統計学入門」
小島 寛之
ダイヤモンド社
2006/09/29 (初版第5刷 2008/2/5)
1890円


正規分布の意味するところをちゃんと理解しようと思い、たまたま手に取った本書の著者名を見て、おお、そういえばblogを読んでいるではないか、と気づき、ついで、中身をめくって分かり易そうな工夫がしてあり、役に立ちそうな予感がしたので購入。

統計学に対する基本的な理解を得るに最適な一冊に思える。
標本と母集団の違いを理解することが最終ゴールである(と思った)。
基本的には統計を理解するために必要なツール(いろいろな平均、分散、標準偏差、いろいろな正規分布など)の説明。
おかげで標準偏差の意味(ばらつき具合ですが平均±2標準偏差内に95%含まれるとか)も理解できるし、おまけに偏差値(学力偏差値)の捉え方も誤解が生じないように配慮がなされている(平均±標準偏差はマイナス側にいようが、プラス側にいようが差はないですよ)。偏差値も母集団次第であることも理解できる(学力が高い母集団と低い母集団では、同じ成績を取ったとしても偏差値は変わる、つまり相対的)。
また、標本は標本であるが故に、例えば、標本の平均は母集団の平均とは言えないが推測することが可能、など(いや、考えてみれば当たり前だが)。
あと、株のボラリティリティ(リスク指標)、シャープレシオ、95%予言的中区間(筆者の造語)と95%信頼区間の違い、t分布、検定とか。
ここぞと言うところには「コラム」や「補足」で考え方、問題の捉え方を文字通り補足している。
「文献案内」では、参考にした/なる文献を理由を交えて紹介しているのも親切。もうちょっと勉強してみようかと思わせる。

実運用では「母集団が正規分布に従っている」かどうかを検証する必要があり、そこが難しいところではないか。

統計学へ招待するための試みがちりばめられ、著者と編集者の気合いが感じられる。
知っている人が見過ごしやすい知らない人の間違い易いポイントに気を配ったり、できるだけ飽きさせないような工夫が感じられる。
そして何より、装幀が面白い。使われている色が基本的に「青」一色だけ。フォントやグラフに青を使うにしても濃淡をつけたり、背景に青使用する場合でも目的によって濃淡をつけたり等の工夫で「青」一色とは思えないカラフル(!)な仕上げになっている。
内容については次のステップへ踏み出すと不要になるかも知れないが、この装幀(に対する工夫を想像してみる)だけで手元に置いておきたくなる。



「Statistics Hacks ―統計の基本と世界を測るテクニック
Bruce Frey
鴨澤 眞夫 (監修), 西沢 直木 (翻訳)
オライリー・ジャパン
初版 第一刷 2007/12/26
2520円


「完全独習 統計学入門」を手に取った後、HACKSのフレーズに惹かれて購入。
ハックするというと誤解があるかも。
統計的手法を実運用に適用するにあたっての入門書。サブタイトル通り。
こちらも手元に置いておくことになると思う。
こういうときにはこういう統計的手法を使うとか、間違いやすいポイント、統計学で常識とされているが書籍にはあまり載っていない事柄、アベレージにもいろいろあること(平均値:mean、中央値:median、最頻値:mode)とか。
平均収入や平均貯蓄高といったものが、平均値(正規分布に近い場合に有効)ではなく中央値(分布形がひずんでいる場合に有効)が適切であることが読み取れる。標準偏差が分かるともっとよい。
テストや質問の内容を適切に作るには(信頼性、妥当性の評価)とか、適切だったかどうかを回答から項目分析(難易度指数、識別指数、選択肢分析)を用いて判断するとか。
モンティホール問題にもふれていて(p.152)、よくまとまっていて分かりやすい。
その数学が戦略を決める」にあった乳ガン検診の確率に関する説明だとか(p.146-p.149)。
医学的検査において、検査の敏感度と特異度は二律背反の関係にある。より敏感度の高い検査を実施すると、擬陽性が増える傾向にある。ただ、生死が関係するような深刻なケースでは、こうした結果も許容範囲となる。
「HACK#47すごい偶然の神秘をあばく」では、リンカーン大統領とジョン・F・ケネディ大統領の一致を強調する例を挙げ(p.203)、それに対して「ほぼ無限に存在する」不一致の例をあげることで、
偶然の一致を目にするのは、それを探しているときなのだ
と喝破する(p.205)。
魅力的なタイトルの「HACK#49捏造データを指摘せよ」ではベンフォードの法則を紹介して「虚偽の税務申告を見抜くのに適用してきた」(p.218)などの実例も。

気づいた誤植:p.157の「表5-4」(2箇所)は「表4-4」の間違いだと思う。

原書の雰囲気は読んでないので分からないが、訳文のスタイルがいかにもハッカーが書いてます調で面白い。
本文中に時々出てくる「フランク伯父さん」に関する逸話も、もうご勘弁辟易感が醸し出されていて、本書をそこはかとなくハッカー本的雰囲気とするのに貢献している。訳していて楽しかったのではないだろうか。
しかし、監修(一部訳も)の鴨澤眞夫氏は、日本野人の会CEOって、ナニコレオモシロイ。在沖縄で翻訳か。この人のLife Hacksに興味が湧く。

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