2度とこのよう不幸な事故を起こさないような対策を講じることがせめてもの弔いである。
素人が考えただけでも以下の対策を列挙できる。
- 鉄砲水の発生履歴の確認 (危険性の把握)
- 気象の予測と作業中止の判断の明確化 (迷ったら安全サイドへ)
- ゴム胴衣(胴付長靴)の着用の禁止 (危険性の排除)
- 雨水の大地への浸透推進 (危険性の排除)
- 川に頼る雨水処理の改善 (危険性の排除)
- 川水のコンクリート護岸への浸透改善 (危険性の排除)
- 河川内作業における1名1安全ロープの接続義務 (受動的安全の確保)
- 暗渠上流側入口の人間吸い込み防止柵 (受動的安全の確保)
さて、「失敗学」のリーダの一人、機械工学の中尾政之の失敗学の本。
機械工学の失敗例を集めてみると、約200の事例から41個に分類できることがわかったという。
機械工学の人だけあってその方面の事例が多く、専門用語も頻出する。
もともと、国が構築した失敗事例ライブラリである「JST失敗知識データベース」に失敗百選という「国内外で発生した典型的な失敗事例を100例程度取り上げ、読みやすく記述」されたものがあり、個々の事例を詳細に眺めて行くにはそちらのほうが文字数の制約もなく、例えば航空機事故などは事故調査報告書なども掲載されており、本書よりも有効だ。本書はその点は物足りない。
ちなみにJSTは科学技術振興機構の略称。
しかし、この本は「まえがき」「第1部「失敗百選」とは何か」での指摘が重要だ。
日本で分析すべき失敗は、企画・開発の失敗である。(p.xiv)仕事で、失敗データベースに刺激を受けて、類似した障害事例のデータベースを構築、啓蒙を行っているが、運営してみてよくわかったのが、障害事例を選定、詳細を記述、分析していくうちに障害の全体像と原因がだんだんはっきりと見えてくることである。「終わりよければすべてよし」ではいけない。
使命感が醸成されないと、失敗を防ぐ気にもなれない。(p.xv)
「自分で失敗を経験したり、他人の失敗を伝聞したりして得た知識を、まず、収集してそこから共通点を抽出する。次にそれを現在の自分の状況に当てはめて、将来の失敗を予測し、致命的な損失を回避する」ことである。つまり「失敗を集めて選んで使う」(p.3)
失敗は技術的と組織的の原因を併有する(p.28)
重大事故は主要機能以外の些細な要因から発生する(p.29)
失敗は思考水平面の周辺部から発生する(p.47)
管理強化してもおっちょこちょいの人間の性格は変えられない(p.50)
読むよりも作る方がはるかに経験値を上げるのは、どの世界でも同じであり、事例構築活動はメンバーが一人一人やるべきだと思った次第。
以下は手元にある関連する本の紹介。
「決定版 失敗学の法則」畑村洋太郎著
ビジネスマン向けの失敗学の啓蒙書。
「摩擦、軋轢があるのが健全な組織」という一文に唸る。
ひとつの組織の寿命曲線のなかで萌芽期、発展期の途上にある組織は、各人にやる気と夢があって組織全体に活気があります。各人が情熱に燃えていて「おれが、おれが」といろいろなことをやりたがるので当然、衝突が起こります。だからこそ、新たな創造が生まれるのです。(p.164)しかし、成熟した組織では役割分担がはっきりしており、それが、組織間に「隙間」を作ることになる。そこに失敗が起こる。
失敗の温床ともいえる隙間を作らないようにするには、軋轢や摩擦が起こるような状態が健全なのだと認識して、組織運営することです。(p.165)
「NHK知るを楽しむ この人この世界 2006年8・9月 だから失敗は起こる」語り手:畑村洋太郎
ふとTVを見ると失敗学をやっているではないか。さっそく次の日に書店へ出かけて最後の1冊を手にした次第。
責任追求でなく原因究明を六本木ヒルズ回転ドア死亡事故が、当事者のみならず業界を超え、法律家、医師、建築家など第三者的な視点からも原因の究明、回転ドアのみならず、ドア全般に対する「本質安全」「制御安全」への取り組みに当たったことが「失敗学」の集大成とも言えるものとしている。
ドアは軽くてゆっくり動かなければ危ないのである。
ベビーカーの車輪が電車のドアに挟まれないように大きくなっているのをご存じか?
「パイロットが空から学んだ危機管理術」坂井優基著
失敗学ではないが、パイロットから見たリスク管理の要点を読みやすくまとめた本。
標語として並べて張り出しておくと何かの時のヒントにはなりそうだ。
など。
- 判断に感情を持ち込んではいけない
- 2つ以上いいことは同居しない
- 都合のよい解釈をしてはいけない
ガーブ川の事故は確かに急激な気象の変化とそれに伴う河川の増水が主要因かもしれない。
しかし、決して、一つの要因から起こった事故でないことは明らかだ、と上記の本を読んだ今はそう考えることができる。
責任追及ではなく原因究明を。
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