チェックリスト効用の啓蒙本。
原題は"The Checklist Manifesto"。
チェックリストの具体的な使い方を指導するマニュアル本ではない。
医療に携わる筆者が、WHOでの手術後の生存率を高めるための啓蒙活動に参加した際、航空業界、建設業界などで使われているチェックリストの有用性を認識し、医療界への転用で実績をあげた経緯をベースにチェックリストの効用を謳う。
筆者のWHOでの成果は
ここと
ここにあるようだ(”
WHO surgical safety checklist”pdfファイル)。
私は通信業に従事しているのだが、お客さまの回線を開通させる、または、回線を借用する、設備を建設/更改する、などの作業にあたって、現場の作業手順書にチェックリストを組み込む形でよく使ってもらっている。
共通する状況は、時間が限られていて、そもそも失敗は許されない、というところ。。
よく使っている/作っているので本書を読んで、なーんだ、と思って、さて、それ以外の業務ではどうか、と振り返ったところ、案外使われていないことに気づく。
システムに頼っている部分はシステムに依存するが、人間の判断を要する場面では記憶に頼っている場合が多いことに気づかされる。
人間がやることなので、どうしてもミスはさけられないし、ダブルチェックするにせよ、先入観、思い込み、判断放棄、などで見逃してしまうことがままある。
その対策として、チェックリストの導入は考えたことがなかった、というか有っても本書の事例のように有効活用されていなかったというべきか(フロー図はよく書く)。
こういう事は、うちの職場だけかも知れないが。
導入にあたっては現場の様々な障壁をクリアする必要があることも書かれている。
チェックリストの有効性を示すエピソードには次のパラグラフが典型的だろう。
もちろん、全員が納得したわけではない。残りの二〇%は、「チェックリストは時間がかかって使いづらく、手術をより安全にしてくれなかった」と思っているわけだ。
だが、私たちはアンケートにもう一つ質問を入れておいた。
「もしあなたが手術を受けるとしたら、その時にチェックリストを使って欲しいと思いますか」
九三%が「はい」と答えた。 (p.179)
チェックリスト作成にあたり、コツのようなものは次の通り。
- 重要な手順を忘れないようにする
- 全てを説明する必要はない
- 実用的である
- チェックリストには限界があることを認識する
- チェックリストには二種類ある。事前準備(読むのち行動)のチェックリストと、実行確認(行動のち確認)のチェックリスト
- リストは10個未満(4〜9個)
- チェックポイントを設けること (チェックリストを作動させる)
- 1分以内でチェックできること
- 忘れてはいけないものを書く (□飛行機を飛ばし続けろ (故障原因の調査の前に))
- 語句を選ぶ
- 長過ぎない
- 有効かどうかを試す
- 使ってもらえるようになるまで何度も修正する
- 結果を出すためにはコミュニケーションが重要
- コミュニケーションを促すのにチェックリストを利用するのは有用
完璧なチェックリストはない。
そもそもチェックリストは完璧ではない。
人間はミスを犯す、でも、人間がやらなければならないことがある、ということを前提にすれば、チェックリストは有用である。