セイバーメトリクスは、近年では野球だけではなく、サッカーなどにも応用されている。
文庫本末尾の丸谷才一の解説によると、野球に全く興味のないイギリスでも評判になったらしい。
イギリス人のようなユーモアがあり、文の構成も複雑に入り組んでいるにもかかわらず流れが自然で実に巧みだ。
さもありなん。
野球経営が野球経験者の経験と勘で行われていた時代に経営効率をまじめに考えると、マネーボールになる。
野球における経営効率とは
より少ない資金で最大の効果を上げるである。
その効果とは、シーズンを通してより多くのゲームに勝つこと
勝つためには得点を上げること、得点を与えないことが必要になる。
ビル・ジェイムスが提唱したセイバーメトリクスでは、得点を上げるためには、まず塁に出ることが最重要で、出塁率と長打率が勝利に相関しており、打率や打点、盗塁などは案外勝ち星にはつながらないことが判明している。
よって、ヒットだけでなく、打率や打点などにはカウントされない四球、つまり選球眼も大きな意味を持ち、バント、ヒットエンドランなどの作戦はアウトカウント増やして得点の機会を逸しているとされる。
ちなみに、中学〜高校と真剣にソフトボールに取り組んだ者として経験上言えることは、強いチームの攻撃は
出塁する(四球はヒットと同じ)で、とにかく塁に出る塁を進めるであり、守備(投手)は
長打は効果的
フライは打たない、ゴロ優先(エラーを誘える)
エラーをしないであり、つまり、ランナーを出さないランナーを進めない、であった。
三振を取れる
四球を出さない
バントはどうか?
1点欲しい時のスクイズを除くと五分五分といった感じで微妙で、これはダブルプレーが少ないソフトボールだからかもしれない。
高校野球のバント作戦はどちらかというと、バッター9人がよいバッターであることは少なく、逆によい投手は一人いればいいので、全体として投手優位で抑えこ まれやすく、つまり三振か内野ゴロが多く、三振よりはひとつ塁を進められるし、内野ゴロでダブルプレーとなりアウトを二つ増やしてそのうえ塁上からラン ナーもいなくなるよりはマシという作戦のように思える。
野球にデータが無かったわけではない。
セイバーメトリクスをベースに置いた野球はデータ野球の一種ではあるが、従来のデータと何が違うのか。
ホワイソックスのフロントは、ボロスと同様、従来型の投手データがあてにならないと知っていたのだ。 だからマイナーリーグでの成績を無視して、自分たちの主観を優先したわけだ。別にホワイトソックスにかぎった話ではない。さんざんデータに騙されてきたから、データを重要視できなくなったのだろう。3Aでは防御率が低かったのに、メジャーに昇格させてみたら火だるま、という例があまりに多かった。変な投げかたをする球の遅いピッチャーなんて。どうせまただめに決まっている。きっとそう思ったわけだ。 (p.361)役に立つデータが無かっただけだ。
ビリー・ビーンのアスレチックスでは実際に打率は並み以下でも出塁率の高い選手を最優先で採用した。
安く上げるためには、出塁率は高いがどこか傷がある者、つまり、守備に難がある、年を取っているなどで、市場で低い価値しかつけられていない選手に目星をつけて、トレード、ドラフトをくまなく利用する。
アスレチックスは本書の執筆中にも20連勝、2年連続100勝を上げるなど、最大の効果をあげるが、他のチームが薄々気づき始めたところに、皮肉にも、本書での種明かしがその後のアスレチックスの優位性を損なわせたようだ。
アスレチックスの優位性は、公的記録では明らかでないデータに気づいていたところにあった。
ここに戦略と均衡の理論であるゲーム理論が適用されるように思う。
つまり、マネーボールが明らかになった今となっては、戦略に差がなければ、もしくはリーグの意図的な戦力分散がなければ、ある一定の結果、常勝チームとそうでないチームの二極化に落ち着く。つまり均衡。
逆にいうと、意図的な戦力分散がないとリーグは活性化しない。
そのためのドラフト指名制度であるが、新人は未知数に近く、実績を残した選手のためのFA制度や、契約に関する代理人の活躍のような市場原理が働くと自ずとリーグは均衡へ向かう。
資金が潤沢ではないアスレチックスは、ビリー・ビーンが新たな勝利の鉱脈を見つけるまでは苦戦が続きそうである。
0 件のコメント:
コメントを投稿