2012/03/20

コミュニケーションの成否

他人とのコミュニケーションで「あの人は話をきいていない」 とか「言ったのに…」「言いましたっ!」「意図が伝わらない(嘆息)」などなど送り手側の意識や都合が優先されがちである。
しかし、これまでこのblogで明らかになったように(えっ、いつ?)、コミュニケーションには
  1. すべてのコミュニケーションの九〇パーセントは不整合である」(つまりわれわれが本当に伝えたいこととと合っていない) (「スーパーエンジニアへの道」G. M. ワインバーグ著)
  2. コミュニケーションの成否は受け手が決定する」(大工と話すには大工の言葉で話せ)  (「プロフェショナルの条件 ー いかに成果をあげ、成長するか」P.F.ドラッカー著(上田惇生訳))
のような特徴がある(ほら!)。
繰り返すと、ほとんどのコミュニケーションは失敗しているし、成否は受け手側が決定する。
コミュニケーションは伝わったという結果を伴わないと自己満足以外の意味がない(自己満足がコミュニケーションの目的の場合もある)。
コミュニケーションが成功した、というのは、送り手側の意図を言葉などの伝達手段を通じて受け手側が、抜け、聞き間違い、などなく100%受け取ることとする。

OSI7階層のLayer4のトランスポート層にはTCPとUDPという2つの通信プロトコルがある。
TCPは、HTTP(WWW)やFTP、SMTP(メール)など、信頼性が必要な場合に使われるが、遅延の影響を受け易いなどの欠点もある。
一方UDPは、TCPのような信頼性はなく、投げっぱなしである。信頼性を捨てる代わりに音声やストリーム映像などのリアルタイム性を重んじるもの、DNS,DHCP,SNMPなどデータ量が少量なものに使われる。
TCPでやりとりするメッセージは、送り手側を(A)、受け手側を(B)とすると、次のステップを踏む。
  1. (A) → 「始めるよ」 → (B)
  2. (A) ← 「いいよ」 ← (B)
  3. (A) → 「じゃ始めるね」 → (B)
  4. (A) → 「データを送るよ、番号はXXXXX番」 → (B)
  5. (A) ← 「番号XXXXX番のデータを受け取ったよ」 ← (B)
  6. 4-5を繰り返し
  7. (A) → 「終わるよ」 → (B)
  8. (A) ← 「いいよ」 ← (B)
  9. (A) → 「これで終わります」 → (B)
信頼性を確保するために、1-3の開始手順と、4-5のデータ送受信手順、7-9の終了手順に応答がある。
(A)からの要求を受け取ったら、受け手(B)は、「受け取ったよ」=確認応答(ACK=Acknowlidgement)を返す。ACKが一定時間に来ないと、送り手(A)は、再送する。
特に1-3と7-9は、3ウェイ・ハンドシェイクと呼ばれる送り手側受け手側双方がACKを受信するようにご丁寧である。

人間のコミュニケーションを直接TCPに当てはめると、
A (挨拶を始めます)
B (いいですよ)
A (では始めます)
A 「おはよう」
B (おはようを受け取りました)
A 「いい天気だね」
B (いい天気だねを受け取りました)
A (こちらからの挨拶を終わりますね)
B (いいですよ)
A (終わります)
実際の会話は太字の部分で一方通行なのでもう少し範囲を広げてみる。
送り手側要求 「100円でお菓子を買ってきて」
(お菓子を買ってくる)
受け手側応答 「100円でお菓子を買ってきました」
これは、コミュニケーションが成功したと言えるのだろうか。
一見すると受け手側は送り手側の要求に応えているように見える。
しかし、人間の場合は、確認応答が要求と一言一句正しくても正しい応答をしたとはいえない。
ある時は文脈を読まなければならないし、ある時は表情を読まなければならない。
送り手側の気持ちがコミュニケーション開始前と後で豹変することもある。
つまり、受け手側応答に対して送り手側要求の期待と一致またはズレからその後の反応が幾通りも考えられる
反応a 「(無反応)」
反応b 「どうもありがとう」
反応c 「よくできた!(期待してなかった)」
反応d 「すごい!(他の店では200円分に相当するよ)」
反応d 「お菓子って、これ?」
反応e 「お菓子だけ?」
反応f 「お釣りはないの?」
反応g 「本当に買ってきちゃった…」
反応h 「別に報告しなくてもいいのに。嫌味?」
反応i 「他の言い方はないの?」
などなど。
受け手側が送り手側の要求を字句通り100%達成しても、本当に求められている要求を満たしているわけではない。
「本当に求められている要求」って何?
それは、送り手側にしかわからない。
コミュニケーションの成否を決めるのは結果を出す受け手側にあるが、どういう言葉でどういうタイミングでどういう内容でなどを制御するのは送り手側である。

コミュニケーションの良い結果を引き出すためには送り手側の工夫が必要である。
送り手側はコミュニケーションの失敗の原因を受け手側に求めるのでははなく、送り手側が自分自身に求めないといけないのである。


画像は3号(♀4才)と幼稚園からの頂いたお誕生日祝いのお人形。
彼女は先週ひとつ歳を重ねました。
それでも私の歳の9%。

2012/03/13

「マネー・ボール」マイケル・ルイス著、中山宥訳

野球をゲームの効率面から捉えた手法、つまり、チームや野球選手を評価する上での判断基準を野球経験者の経験則ではなく定量化されたデータを用い統計的見地から分析方法であるセイバーメトリクスを実践したオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンを中心にメジャーリーグの転換点を捉えた本。
セイバーメトリクスは、近年では野球だけではなく、サッカーなどにも応用されている。
文庫本末尾の丸谷才一の解説によると、野球に全く興味のないイギリスでも評判になったらしい。
イギリス人のようなユーモアがあり、文の構成も複雑に入り組んでいるにもかかわらず流れが自然で実に巧みだ。
さもありなん。

野球経営が野球経験者の経験と勘で行われていた時代に経営効率をまじめに考えると、マネーボールになる。
野球における経営効率とは
より少ない資金で最大の効果を上げる
その効果とは、シーズンを通してより多くのゲームに勝つこと
である。
勝つためには得点を上げること、得点を与えないことが必要になる。
ビル・ジェイムスが提唱したセイバーメトリクスでは、得点を上げるためには、まず塁に出ることが最重要で、出塁率と長打率が勝利に相関しており、打率や打点、盗塁などは案外勝ち星にはつながらないことが判明している。
よって、ヒットだけでなく、打率や打点などにはカウントされない四球、つまり選球眼も大きな意味を持ち、バント、ヒットエンドランなどの作戦はアウトカウント増やして得点の機会を逸しているとされる。
ちなみに、中学〜高校と真剣にソフトボールに取り組んだ者として経験上言えることは、強いチームの攻撃は
出塁する(四球はヒットと同じ)
長打は効果的
フライは打たない、ゴロ優先(エラーを誘える)
で、とにかく塁に出る塁を進めるであり、守備(投手)は
エラーをしない
三振を取れる
四球を出さない
であり、つまり、ランナーを出さないランナーを進めない、であった。
バントはどうか?
1点欲しい時のスクイズを除くと五分五分といった感じで微妙で、これはダブルプレーが少ないソフトボールだからかもしれない。
高校野球のバント作戦はどちらかというと、バッター9人がよいバッターであることは少なく、逆によい投手は一人いればいいので、全体として投手優位で抑えこ まれやすく、つまり三振か内野ゴロが多く、三振よりはひとつ塁を進められるし、内野ゴロでダブルプレーとなりアウトを二つ増やしてそのうえ塁上からラン ナーもいなくなるよりはマシという作戦のように思える。

野球にデータが無かったわけではない。
セイバーメトリクスをベースに置いた野球はデータ野球の一種ではあるが、従来のデータと何が違うのか。
ホワイソックスのフロントは、ボロスと同様、従来型の投手データがあてにならないと知っていたのだ。 だからマイナーリーグでの成績を無視して、自分たちの主観を優先したわけだ。別にホワイトソックスにかぎった話ではない。さんざんデータに騙されてきたから、データを重要視できなくなったのだろう。3Aでは防御率が低かったのに、メジャーに昇格させてみたら火だるま、という例があまりに多かった。変な投げかたをする球の遅いピッチャーなんて。どうせまただめに決まっている。きっとそう思ったわけだ。  (p.361)
役に立つデータが無かっただけだ。
ビリー・ビーンのアスレチックスでは実際に打率は並み以下でも出塁率の高い選手を最優先で採用した。
安く上げるためには、出塁率は高いがどこか傷がある者、つまり、守備に難がある、年を取っているなどで、市場で低い価値しかつけられていない選手に目星をつけて、トレード、ドラフトをくまなく利用する。
 アスレチックスは本書の執筆中にも20連勝、2年連続100勝を上げるなど、最大の効果をあげるが、他のチームが薄々気づき始めたところに、皮肉にも、本書での種明かしがその後のアスレチックスの優位性を損なわせたようだ。

アスレチックスの優位性は、公的記録では明らかでないデータに気づいていたところにあった。
ここに戦略と均衡の理論であるゲーム理論が適用されるように思う。
つまり、マネーボールが明らかになった今となっては、戦略に差がなければ、もしくはリーグの意図的な戦力分散がなければ、ある一定の結果、常勝チームとそうでないチームの二極化に落ち着く。つまり均衡。
逆にいうと、意図的な戦力分散がないとリーグは活性化しない。
そのためのドラフト指名制度であるが、新人は未知数に近く、実績を残した選手のためのFA制度や、契約に関する代理人の活躍のような市場原理が働くと自ずとリーグは均衡へ向かう。
資金が潤沢ではないアスレチックスは、ビリー・ビーンが新たな勝利の鉱脈を見つけるまでは苦戦が続きそうである。

2012/03/11

3.11と忘却と

3.11から1年が経過した。

仕事の上でも東北を管轄とする会社と協力関係にあるので、出張の折などで何回か話を聞いた。
16年前、阪神淡路大震災が起こった。
この後、関西を管轄とする会社が音頭をとって、全国の協力関係にある会社間で災害対策協力に関する規定やそれに付随するマニュアル、連絡窓口などが整備された。
しかし、1年前の震災で明らかになったのは、結局のところ、そういった規定やマニュアルや体制は有用に活用されることなく、形骸化していたということだ。
途中、資料は適宜更新はされていたが、訓練が定期的に行われたわけでもなく、致し方ないのかもしれない。
ただし、当時修羅場をくぐった経験者はやるべきこと、優先順位をはっきり見極め、きわめて有効な働きをしていたことも報告された。

時間が経てば記憶はやがて薄れる。

強烈な経験は、ある者は教訓として心に刻みつけ、ある者にはトラウマという形でエッセンスが心を支配する。
経験していない者でも自分の別の経験を敷衍し豊かな想像力で悲哀を共感できる。
しかし、万人が万人ともそういうわけではない。
経験の継承、共有化というのは難しい。

画像はWikimediaから、オリオン大星雲。
宇宙に目を馳せれば、100年も一瞬の出来事。

LinkStationのファン交換

LinkStationのファンが異音(うるさい)で交換用のファンだけはすぐさま調達して準備をしていたが、5週間経って今日ようやく交換。
ファンの仕様は、40mm x 40mm x 10mm(厚)、スピードセンサー付3ピン、12VDC、4200回転/分、耐久30,000時間。
3万時間なので24時間連続運転で3年半は持つ計算。
前回、交換していないと書いたが、中を見ると、製品が同じで、ハンダで接続された痕跡があり、しかもそのハンダが汚いので、どうも自分で交換したみたいだ。

結局、新しいファンはケーブルが長いので途中でちょん切ってハンダ付けで接続した。

ハンダ付け終了して、気が緩んだのか、まだ熱いハンダコテを素手で握るという失態を犯してしまった。
すぐに冷やしたが、左の薬指がヒリヒリする。

音はだいぶ静かになりました。

2012/03/02

京と閏年と

先日、仕事絡みでスーパーコンピューター京(けい)の開発関係者の話が聞けるセミナーへ参加してきた。
京は理研と富士通が共同で開発したスーパーコンピュータの名前である。
ただし、「共同で開発した」が適切な表現かどうかは不明。
理論演算性能が10ペタフロップス(1回/秒)を達成したことから名付けられたようだ。
今のところ2年連続で世界最速。

以下の3点が興味深かった。
  1. 2009年の事業仕分けで蓮舫議員のツッコミ「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」のお陰で、逆に世間の注目が集まったこと(開発も再開できた)
  2. 世界のトップ500の500番目は10年前のトップの性能であること(10年のアドバンテージ)
  3. スーパーコンピュータの使われ方が海外と日本では様相がだいぶ異なり、海外では2/3が民間企業、残り1/3が学術系に対し、京では30件のうち、1件が民間でのこり29件が学術系であること
特に3.は驚かされた(ちょっとオーバーに書いてみました)。
このことは、ただちに次を意味する。
  • 日本では数値計算が商業に活かされていない
  • 海外では大学等のアカデミックな世界から民間企業へと頭脳流出が起きている
特に1番目の・は、以前に書いた本、「その数学が戦略を決める」イアン・エアーズ著から何も変わっていないではないか。
原本、訳本ともに2007年発行だから4年以上経過しているのに。
民間企業も頭を使った勝負になってきてる。


さて、今年は閏年。
閏はWikipediaによると「閏と潤を混同して”うるおう”という読みがなまったものとされる」が、本来は「じゅん」と読むらしい。
似たような漢字つながりで「澗(かん)」がある。10^36(10の36乗=0が36個)の桁を表す。
この澗は、次代のIPアドレス、IPv6の個数、2^128=約340澗個=340兆の1兆倍の1兆倍で使われていてるので知っていた。
ちなみに現在の主流であるIPv4の個数は、2^32=約42億個で、世界中の人口より少ない。

数の単位つながりで、京(けい)という単位があるので、京といえばスーパコンピューターとつながりで書いてみました、というところ。

画像は猫。
普段はこういう丸顔。

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