2009/04/03

米軍基地内における通信の扱い

0. 初めに
仕事で米軍基地内の軍隊やシビリアンへ通信サービスを提供することがあるので、米軍基地内における電気通信についてまとめてみた。このポストのシビリアンとは、軍隊に属さずに基地内で業務を行う民間企業や米国人などを言う。
正式には総務省の見解を伺う必要があるのだが、それはそれとしてひとまず置いておく。
ネット上で探し得た情報から追いかけてみる。
要点は箇条書きにした。

1. 米軍と日本の通信に関する法律の関係
概要はyahoo!にあった。
在日米軍の関連情報
中段あたりに電波法、電気通信事業法と有線電気通信法についての言及がある。
電波法の特例
米軍の無線局については電波法の適用がない。
日米安全保障条約第6条施設・区域並びに日米地位協定の実施に伴う電波法の特例に関する法律(昭和27年法律第108号)
電気通信事業法等の特例
電気通信役務に関する料金について電気通信事業法の適用がない。米軍が設置する有線電気通信設備について有線電気通信法の適用がない。
日米安全保障条約第6条施設・区域並びに日米地位協定の実施に伴う電気通信事業法等特例法
しかるに、二つの特例を見るといずれも「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)」の定めるところによるとある。
すなわち、「電波法」と「料金」と「米軍が設置する有線の電気通信設備」については
  • 日本における電気通信の法は適用されない
  • 地位協定の定めるところによる
となる。

2. 地位協定
その地位協定のどこが関係してくるかというと第三条(施設及び区域内外の管理)(pdf)と第七条(公益事業の利用)のようだ。
第三条の抜粋は次のの通り。
第三条 施設及び区域内外の管理
合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる日本国政府は施設及び区域の支持、警護及び管理のための合衆国軍隊の施設及び区域への出入の便を図るため、合衆国軍隊の要請があつたときは、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で、それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地、領水及び空間において、関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。合衆国もまた、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で前記の目的のため必要な措置を執ることができる。

合衆国は、1に定める措置を、日本国の領域への、領域からの又は領域内の航海、航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によつては執らないことに同意する。合衆国が使用する電波放射の装置が用いる周波数、電力及びこれらに類する事項に関するすべての問題は、両政府の当局間の取極により解決しなければならない。日本国政府は、合衆国軍隊が必要とする電気通信用電子装置に対する妨害を防止し又は除去するためのすべての合理的な措置を関係法令の範囲内で執るものとする。
要約すると、
  • 米国は基地内において通信に必要な措置をすべて執ることができる
  • 日本政府は米国が要請があった場合は必要な便宜を法律の範囲内で必要な措置を執る
  • 米国も両国間の協議の上必要な措置を執ることができる
  • 米国は日本国内の通信を不必要に妨げてはならないことに同意する
  • 電波に関する問題は両国間の取り決めで解決する
  • 米国軍隊の通信への妨害の防止、除去のために日本政府は法律の範囲内で必要な措置を執る
となる。「米国は基地内で通信に関して何でもできますが、問題ある場合は協議しましょう、日本政府も協力します」というところか。

2. 地位協定第三条
その第三条には、より具体的な内容を補足とした合意議事録が添付される。

第三条に関する合意議事録
日米地位協定合意議事録
第三条
第三条1 の規定に基づいて合衆国が執ることのできる措置は、この協定の目的を遂行するのに必要な限度において、特に、次のことを含む。
1 施設及び区域を構築(浚渫及び埋立てを含む。)し、運営し、維持し、利用し、占有し、警備し、及び管理すること
(略)
5 合衆国が使用する路線に軍事上の目的で必要とされる有線及び無線の通信施設を構築すること。前記には、海底電線及び地中電線、導管並びに鉄道からの引込線を含む。
6 施設又は区域において、いずれの型態のものであるかを問わず、必要とされる又は適当な地上若しくは地下、空中又は水上若しくは水中の設備、兵器、物資、装置、船舶又は車両を構築し、設備し、維持し、及び使用すること。前記には、気象観測の体系、空中及び水上航行用の燈火、無線電話及び電波探知の装置並びに無線装置を含む。
また、日米合同委員会の合意事項も補足として利用される。
第三条に関連する日米合同委員会合意 →周波数の分配及び妨害除去(52年6月)(pdf)
 →米軍の電気通信施設使用(52年7月)(pdf)

3. 地位協定第七条
次に第七条は公益事業の利用について。
第七条 公益事業の利用
合衆国軍隊は日本国政府の各省その他の機関に当該時に適用されている条件よりも不利でない条件で、日本国政府が有し、管理し、又は規制するすべての公益事業及び公共の役務を利用することができ、並びにその利用における優先権を享有するものとする。
第七条議事録
合衆国軍隊に適用される電気通信料金の問題は、特に、千九百五十二年二月二十八日に署名された行政協定の協議のための第十回合同会議の公式議事録に記録されている第七条に関する陳述に照らして、引き続き検討されることとし、前記の陳述は、これに言及したことによりこの議事録に組み入れられたものとする。
公益事業には電気通信業も含まれる(労働関係調整法第8条)。
つまり、米国軍隊は
  • 通信サービスを利用することができる
  • その利用の優先権がある
であり、
  • 米国軍隊に適用される通信料金の問題は引き続き検討される(まだ決定していない)
となる。

4. 通信と地位協定まとめ
とここまで来て、
  • 米国は基地内において日本の通信関連の法の適用を受けない
  • 米国軍隊は日本の通信サービスを利用することができるし、優先権も持つ
  • 米国軍隊は通信に必要な措置はすべて執ることができる
  • 日本政府も法律の範囲内で協力する
  • 問題がある場合は両国間で協議する
ことがわかった。
しかし、シビリアンへの通信サービスの提供は曖昧だ。基地内では日本の電気通信に関する法律は適用されないが、シビリアンが通信サービスを利用できるとは書かれていない(できないとも書かれていない)。
実際にシビリアンへの通信サービス提供は珍しくなく、既に一般的だ。
ところで、米国軍隊が日本の通信サービスを利用するのは、機密の問題があるので一般的な利用に限られている。

5. 課税と地位協定
ついでに、シビリアンに関しては、課税、具体的に言うと消費税がかかる/かからないの問題がある。
日本側業者とシビリアンとの間の取引ではシビリアン側に納税の義務があるか不明(地位協定第十三条 課税(pdf))だが、日本側業者は消費税を納めるという事になっているらしい。
国税不服審判所
ホーム >> 公表裁決事例集 >> 公表裁決事例要旨 >> 消費税法関係 >> 免税取引
の中段にある
「在日米軍基地内にある取引先との取引が、日米地位協定の所得税等特例法に規定する免税取引に該当しないとした事例」
ちなみに第十三条によると米国軍隊の「構成員及び軍属並びにそれらの家族」には課税の義務はないと明記されている。

全体を俯瞰すると、税は取れる所からはとるけど、通信サービスは実際的にはシビリアンにもフル提供している現状では、バランスが取れていないように思う。

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画像は大正期の首里三箇首里三箇とは琉球王国時代に酒造が認められた地域、首里崎山町、首里赤田町、首里鳥堀町のこと。今でも石垣の一部や通りの狭さに面影が少しだけ残っている。

(2013/07/05修正: 項目立て等)

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